お金がない!社長急逝、納税資金なし…会社解散の危機に

目次1 後継者対策は万全だったが…2 【解説】自社株の相続税が払えない場合は? 経営者の相続対策は、事業をいかにして次世 … 続きを読む お金がない!社長急逝、納税資金なし…会社解散の危機に


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経営者の相続対策は、事業をいかにして次世代に承継するかに加えて、個人の財産を相続させることも考える必要があります。しかし相続・事業承継に関係する人は多くなる傾向にあり、トラブルに発展するケースが後を絶ちません。今回は相続税の納付が困難になってしまった事例をみていきます。
※プライバシーに配慮し、実際の事例と変えている部分があります。

後継者対策は万全だったが…

【登場人物】
Aさん…地方で製造業を起業
Cさん…Aさんの長男。会社の継ぐことを考え、Aさんの会社に転職。後継ぎ候補筆頭
Dさん…Aさんの次男。大学卒業と、Aさんの会社に就職

 

若くして独立し、地方で製造業を営んでいたAさん。起業から20年経ち、地元でも知られた存在になっていました。会社を興した当時は、仕事で目が回るほどの忙しさだったのに加え、長男のCさん、次男のDさんが生まれ、てんやわんやだったといいます。

 

Cさんは大学進学のため、一度、地元を離れ、同業の会社に就職。経験を積んだのち、Aさんの会社に転職。将来的に会社を継ぐことを考えての決断でした。そしてDさんもまた、Cさんの転職に続くように、Aさんの会社に就職しました。

 

Aさんは常々、「将来、この会社は二人に継いでほしいと思っている」「兄弟、ふたりでこの会社を大きくしていってほしい」などと子供たちに聞かせてきたといいます。しかし無理強いをするつもりはなく、子供たちの自主性に任せると言っていたそうです。

 

子供たちにとっては、父は尊敬できる「格好いいお父さん」だったといいます。大学進学のために一度は地元を離れても、父のあとを継ごうと戻ってきたのは、二人の子供たちにとっては、ごく自然なことだったかもしれません。

 

ただそんなある日のこと、事件が起こります。Aさんが急逝したのです。元々付き合いでお酒を飲む機会が多かったAさん。医者からは健康のためにお酒を控えるように注意を受けていましたが、「宴席も仕事のうちだから」とお酒の量が減ることはなかったといいます。そんな豪快な性格も、会社が大きくなった要因かもしれませんが、突然の不幸を引き起こしてしまったのです。

 

突然、会社のトップが亡くなった……どれだけ混乱するか、想像に難くないでしょう。いずれCさんが社長になることは既定路線だったとはいえ、Aさんは50代になったばかりで、あと10年は社長業を続けるつもりだったといいます。その間に、少しずつ「社長とはなんなのか」「経営とはなんなのか」CさんとDさんに叩き込むんだ、と。

 

とはいえ、誰かが社長を継がなければなりません。Cさんが社長に就任することは家族も従業員も全会一致でした。Dさんも「どこまでできるか分からないけど、兄さんのことをバックアップするよ」と言ってくれました。これでひと安心、と一息ついた矢先、最も困難な状況に直面します。

 

「えっ、そんなに高いのか!?」

 

それはCさんが、自社株の評価額を聞いた時のこと。計算の結果、3億円近くになることが判明したのです。業績は右肩上がりだったから、ある程度の金額になるとは思っていたCさん。しかしその額は想像をはるかに超えていたのです。

 

当然、自社株を承継するにあたり、相続税の支払いがあります。しかし事業承継を本格的に考えるのはこれからだったため、相続税の納税のために、現金の準備など、Aさんがしているわけがありません。

 

「相続税が払えない! どうしたらいいんだ!!」と右往左往するCさん。Dさんも「どうしたらいいって、いわれても……しっかりしてよ、兄さん」と、一緒に右往左往するしかありませんでした。

【解説】自社株の相続税が払えない場合は?

先代の経営者が亡くなり自社株を相続した際、多額の相続税が発生する場合があります。相続税は基本的に相続が発生してから10ヵ月以内に納付する必要がありますが、納付が難しい場合は、銀行からの借入れや、延納・物納などの制度を利用し、税額を負担しなければなりません。

 

そもそも自社株の相続で、相続税が払えないという事態はどうして起きるのでしょうか。

 

まず自社株の相続税対策が不十分だったこと。会社の規模に対して対策が小規模だったり、対策のスタートが遅く、効果が出る前に相続が発生してしまったりすると、自社株の相続税評価額が高くなり、多額の相続税が発生します。

 

また自社株対策をしていても、想像以上に相続税評価額が高かった、というケースもあるでしょう。自社株の相続税評価額は毎年変わるので、都度計算し、不十分であれば対策を講じておいたほうがいいでしょう。

 

そして実際に自社株の相続で多額の相続税が発生し、納税が難しいとなった場合、どのような対応が可能なのでしょうか。

 

まず考えられるのが、個人資産を売却して納税資金を確保する方法です。流動性の高い金融資産があれば、手軽に実行することができるでしょう。

 

次に、会社に納税資金に見合う現預金がある場合には、自社株買いを行い、会社の資金を個人の元に移し納税する方法もあります。実は、亡くなってから3年10か月以内に自社株買いをすると、所得税等の優遇があるので、通常よりも税金面でお得に会社のお金を株主に移動することができるのです。

 

また延納の制度を利用する方法もあります。延納は、税額を分割して納付する制度で、ペナルティを課せられることはありません。ただし手続きが大変なので、実務では、銀行からの借入れで対応される方の方が多いですね。

 

これらがすべて難しい場合、物納という方法もあります。相続税の納税は原則として現金での一括納付ですが、不動産などの財産を納税に用いることができる場合があります。ただし必ず利用できるとは限らないので、早めに税理士に相談することが得策です。

 

また、事業承継税制という最終的に相続税が免除になる自社株用の制度もあるので、要チェックです。

 

このように、自社株の相続税が払えないという事態に陥ると、会社存続にさえ影響を与えることになります。このようなことにならないよう、自社株の相続税評価額が低いタイミングで生前贈与を行う、それが難しい場合には納税資金を確保しておくなど、生前からしっかりと対策を実行することが重要です。

 

◆話を伺ったのは…

桑田悠子さん

円満相続税理士法人 代表社員税理士。学生時代にアパレル・化粧品事業を開業した後、祖父の死をきっかけに相続のプロになることを決めて税理士業界に飛び込む。税理士法人山田&パートナーズを経て、円満相続税理士法人のパートナーに就任。相続や事業承継を手掛けるほかに、弁護士法人・税理士法人・一般企業などを対象とした相続税研修会や、事業承継研究会などを開催。「難しいことを、分かりやすく、穏やかに話す」ことが特徴。生前対策・事業承継対策・相続税申告を数多く手掛け、SNS での発信も人気の相続専門税理士。
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