オフィス空室率はどう動くのか?(大都市圏「オフィス需要」調査2022年秋編)

オフィスの空室率はコロナ流行後から上昇し始め、供給過剰の目安とされる5%以上を18カ月連続で上回っています。一方で、空室率も賃料も横ばいが続くオフィス需要が今後、どう動くのかを探ります。


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新型コロナウイルスによるテレワークの普及で、東京都心のオフィスの空室率が高止まりしています。東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の7月時点の平均空室率は6.37%でした。コロナ流行後から上昇し始め、供給過剰の目安とされる5%以上を18カ月連続で上回っています。一方で、空室率も賃料も横ばいが続くオフィス需要が今後、どう動くのかを探ります。

オフィス需要の減少傾向は地域差がある

新型コロナが蔓延した2020年以降の国内主要7都市(東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、横浜、福岡)のオフィス需要は減少傾向が続いています。コロナ禍による景気悪化が引き金になっているようです。ただ、その影響は地域によって大きな差が生まれています。

オフィス仲介会社、三鬼商事が公表している「オフィスマーケットデータ」によると、東京のオフィスの平均空室率は、2020年1月には1.53%だったのが21年12月は6.33%と2年間で4.8ポイント上昇しています。

一方で大阪は20年1月から21年12月までの2年間の間に2.57ポイント、名古屋は3.73ポイント、横浜は2.73ポイント、仙台は2.1ポイント、福岡は2.52ポイントの上昇といずれも東京を下回っています。札幌に至ってはわずか0.83ポイントしか上昇しておらず、事実上空室率は横ばいだったといってもいいでしょう。

賃料を見るとその差はさらにはっきりと見えてきます。東京は20年1月の1坪当たりの平均賃料は2万2448円でしたが、21年12月は2万596円と1852円下落しているのに対して、大阪府は1万1856円から1万1796円と下落幅はわずか60円。その他の地域は逆に賃料は上昇しています。

こうした地方の主要都市と東京との差はいったいどこから生まれてくるのでしょうか。20年に入ってオフィスビルの空室率が急速に上昇したきっかけとなったのは新型コロナの蔓延による景気悪化です。

景気悪化で経営が圧迫されれば企業はコストを下げるためにオフィスを縮小します。それだけではありません。

 

※「最新のオフィスビル市況」(三鬼商事)

 

コロナ過の中で政府は緊急事態宣言を出しました。20年には4月7日から5月25日にかけて第一回の緊急事態宣言を出し、21年には1月8日から3月21日にかけて第2回の緊急事態宣言、4月25日から6月20日かけて第3回緊急事態宣言、7月12日から9月30日にかけて第4回緊急事態宣言が発出され、行動抑制によるテレワークの浸透が東京のオフィス需要に大きなダメージを与えたと考えられます。

コロナ禍前にテレワークを取り入れていたのは「働き方改革」などを積極的に進めるごく一部の企業だけにすぎませんでした。ところがコロナが蔓延する中で政府は人流抑制の協力を企業にも要請、在宅勤務やテレワークが積極的に導入されるようになり、不要となったオフィスのスペースを解約する動きが加速しました。

東京の空室率が上昇した2つの理由

では、なぜ東京の空室率だけが突出して上昇したのでしょうか。これには2つの大きな要因があるとみられています。

まず一つ目は、首都圏と地方都市との通勤事情の違いです。テレワークの実施状況を地域別で見てみると、20年にテレワークをやるようになったのは、首都圏は34.1%ですが、近畿圏は23.3%、中京圏は19.7%、地方都市圏は16.2%と首都圏が圧倒的に多いのです(国土交通省の「令和2年度テレワーク人口実態調査」)。

なぜこうした格差が生まれたのでしょうか。さらに国交省の調査を見ていくと、首都圏では通勤時間が1時間以上の人の割合が34.6%あるのに対して、近畿圏では23.4%、中京圏では14.8%、さらに地方都市では8.4%しかありません。

しかも移動手段は首都圏が通勤ラッシュを引き起こす電車やバスが全体の67.8%を占めるのに対して近畿圏は51.9%、中部圏は28.4%、地方都市圏は16.7%しかありません。

移動に時間がかかり、しかも3密(密閉・密集・密接)を引き起こす移動手段を多くのサラリーマンが活用する東京では結果的にテレワークを実施する企業の割合が他の地域よりも多くなり、それがオフィス需要にも影響を与えたのではないかとみられています。

そして2つ目の要因が新規供給の状況の違いです。

東京ビジネス街では20年には53万1372坪。「新規供給のピークとなり『2003年問題』といわれた2003年の新築ビル竣工ラッシュに次ぐ勢いだ」(不動産会社経営者)という。

しかし新規供給物件は早い段階で入居の内定を固めていたことから、空室率は2.95%と高稼働を可能にしました。2020年の供給に対して内定しているテナントの多くは既存ビルからの移転組。既存ビルはコロナの直撃で新規入居者の誘致に苦労する羽目となってしまいました。

さらに21年には15万259坪、22年は16万5389坪と大幅に新規供給を抑制したが、新規供給物件の空室率は13.09%に跳ね上がりました。コロナでオフィス需要が減少し、空室を残したまま竣工するビルが増加したためです。

22年は空室率も平均賃料も横ばいだが…

一方で東京以外の都市の新規供給を見てみると、大阪、名古屋、札幌、仙台は20年、21年とも例年に比べ大規模といえるような新規供給は行われていません。そのため新規供給が空室率を上げる大きな要因とはなっていないようです。

ただ、横浜と福岡は20年、21年と立て続けに大掛かりな新規供給が行われていますが、空室率上昇に対する影響はそれほど大きなものではありませんでした。

横浜では21年に「みなとみらい地区」で大型ビルが供給されましたが、大手メーカーが東京から本社を移転し稼働率を上げています。福岡では古いビルを建て替える「天神ビックバン」プロジェクトの第一号案件が21年にスタートしましたが、早い時期からテナント誘致を進めてきたため稼働率の引き下げ要因にはなりませんでした。複数の大型ビルが同時に立ち上がった東京とは違い、横浜と福岡は空室率が東京ほど上がらず平均募集賃料は下がりませんでした。

22年以降、オフィス需要はどうなっていくのでしょうか。

すでにコロナ禍の経済に与える影響は緩和され、20年には-4.6%に落ちこんだ日本の実質経済成長率は21年には1.62%、22年(4月時点での推計)には2.36%となり、回復基調を見せ、企業収益はすでにコロナ禍前の水準に戻っています。景気悪化によるオフィス需要の影響は解消してきてはいます。東京でも22年の新規供給は抑制傾向が続くことから供給過多を招く心配はなく、空室率も平均賃料も7月までは横ばいが続いています。

しかし、テレワークはすでに企業に定着しつつある状況であり、働き方はコロナ以前とは大きく変わってきたことから、「オフィスを拡大したい」という潜在的な需要もあまり期待できません。大きな需要回復要因がないなかで東京は23年から25年、大阪では22年に新規の大量供給が予定されています。23年以降は再び空室率の上昇局面を迎える恐れもあるので、注視していく必要があります。