夫急逝で悲しみに暮れる妻…さらに絶望へと叩き落す、税理士からのまさかのひと言

目次1 社長の夫、妻は経営にまったく関係なかったが2 【解説】社長が会社の債務について連帯保証人になっていたら 経営者の … 続きを読む 夫急逝で悲しみに暮れる妻…さらに絶望へと叩き落す、税理士からのまさかのひと言


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経営者の相続対策は、事業をいかにして次世代に承継するかに加えて、個人の財産を相続させることも考える必要があります。しかし相続・事業承継に関係する人は多くなる傾向にあり、トラブルに発展するケースが後を絶ちません。今回は会社の債務に関する問題についてみていきます。
※プライバシーに配慮し、実際の事例と変えている部分があります。

社長の夫、妻は経営にまったく関係なかったが

【登場人物】
Aさん…40代、会社経営
Aさん妻…Aさんとの子どもは長男と長女

 

Aさんは、20代のときに会社を興し、それから20年。徐々にではありますが、売上は大きくなり、いまでは社員を抱えるような会社になりました。

 

起業をしてから、仕事に集中できたのも奥さんのおかげ。結婚をしたのは20代後半。長男が生まれたのは30代で、その翌年には長女も生まれました。本来であれば、自身も子育てに参加しなければいけませんが、「大丈夫、家のことは任せて」と奥さんが言ってくれたのです。

 

知らない間に上の子どもは高校生。将来の話をする機会も多くなりました。小さい頃は「野球選手!」などと言っていた長男ですが、いまでは「お父さんの会社を継げるようになりたい」と言うようになり、Aさんを驚かせました。

 

「私が『お父さんはスゴイ!』『お父さんのように偉くなりなさい!』なんて言ってきた成果ね」とAさんの奥さんはしたり顔。Aさんにとって、自身の会社は我が子のように愛しい存在でしたが、最終的に会社は一代でたたむか、または継いでもいいという社員がいたら譲ろうと思っていたといいます。会社を息子に継ぐことは、いままで、少しも考えてきませんでした。そこにきて長男のまさかの発言には驚かされたのと同時に、大きな嬉しさがありました。

 

「息子はまだ高校生ですから、この先、どうなるかなんて分からないですよ。でも本当に会社を継ぎたいと思ってくれるよう、もっと会社を大きくしていかないと」

 

Aさんはそう心に決めて、いっそう、仕事に精を出すようになったといいます。しかし悲劇は突然降りかかります。ある日のこと、Aさんが急逝したのです。会社の倉庫で倒れているところを発見されましたが、すでに手遅れだったといいます。

 

突然のことにただ悲しみに暮れるしかない家族。Aさんの妻は、悲しみと同時に、この先、二人の子どもをきちんと育て上げられるのか、心配になったといいます。

 

ただその不安は、すぐになくなりました。まず団体信用保険のおかげで、遺族が住む家は確保できたこと。ローンの返済の心配はゼロになりました。そしてAさんにかけられていた生命保険もありました。「子どもたちをちゃんと大学に行かせることができる……」とAさんの奥さんは胸を撫でおろします。

 

しかし、それで終わりではなかったのです。葬儀などがひと通り終わったあと、Aさんの奥さんのもとに、会社の顧問税理士から電話が入りました。

 

「奥さん、大変申し上げにくいのですが……」

 

会社の顧問税理士がAさんの奥さんに伝えにきたのは、①会社には債務があり、Aさんが連帯保証人になっているということ ②会社では払いきれない債務として5,000万円があること ③その債務はAさんの奥さんに相続されるということ でした。

 

「えっ、5,000万円!?」

 

Aさんの奥さんにとって、まさかの展開。Aさんの会社の経営には一切関わっていないのに、借金が自分に降りかかるなんて……。

 

「主人の保険でも、払いきれないわ。それに保険を使ってしまうと、今後の私たちの生活が……」

 

どうしたらいいのか分からず、途方にくれていると、税理士は事実ですが残酷なことを切り出します。

 

「相続放棄という手もあります。そうすると債務を負わなくてもよくなります。ただしAさんから相続されるもの、すべてを放棄することになるので、このご自宅も放棄されることなり、みなさんには何も残りません」

 

「そんな……」

 

夫だけでなく、すべてをなくすかもしれない事実に、Aさんの奥さんは目の前が真っ暗となり、立っていられなくなり、その場に倒れ込んでしまいました。

【解説】社長が会社の債務について連帯保証人になっていたら

法人と個人は別人格ですので、会社の資産・債務については、代表取締役(社長)が死亡したとしても、その相続人が相続することはありません。しかし、中小企業では代表取締役(社長)が会社の債務について連帯保証人となっていることがあります。まさにこの事案です。

 

この場合、連帯保証人の債務については相続人が相続する(民法896条)ため、相続人が返済する義務を負います。

 

今回の事案のよう5,000万円もの借金を背負うことになってしまった場合には、税理士の説明にもあるように、相続放棄という手段が最も効果的な手段かと思われます。

 

相続を放棄することにより、被相続人のプラスの財産を受け取ることができなくなりますが、同時に被相続人のマイナスの財産(借金)から解放されます。しかし、相続放棄をするためには、自分が被相続人の相続人であることを知った時から3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の手続をする必要があります。さらに、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したりすると法定単純承認(民法921条)に該当し、相続放棄をすることができなくなりますので、注意が必要です。

 

では相続放棄をすると、被相続人の遺した物はまったく受け取れなくなるのでしょうか。

 

上記で生命保険金の話が出てきましたが、生命保険金については条件によっては相続放棄をしても受け取れる場合があります。

 

その条件とは、①受取人が「相続放棄をした人(この事例ではAさんの妻の名前)」となっていること②あるいは受取人を「相続人」としていることです。

 

一方で、死亡保険金の受取人が被相続人となっている場合や医療保険金のように生前に受取人(被相続人)に支払われるような保険金の場合には、その保険金は被相続人の財産となるため相続放棄をすると受け取ることができなくなります。逆に受け取ってしまうと法定単純承認に該当し相続放棄ができなくなるのが原則です。

 

この点については、慎重に判断することが必要ですので相続放棄を考えている場合には専門家に問い合わせるか、相続放棄の手続が終わるまで受け取りを保留しておくことをおすすめします。

 

また、生命保険金が受け取れる場合には、相続税が発生することがあります。相続税については税理士に相談してみることも検討してください。

 

◆話を伺ったのは…

加陽 麻里布さん

永田町司法書士事務所 代表司法書士
司法書士合格後、司法書士事務所で実務経験を積み、2018年に独立。永田町司法書士事務所を設立する。業界“ファーストクラス”を基本理念に、依頼者のビジネスと日常を有利にするために日々邁進中。執筆活動にも積極的で、媒体を問わず精力的に活動している。

永田町司法書士事務所 https://asanagi.co.jp/