税務調査官「追徴課税します」…社長の相続対策が完全裏目に

目次1 税理士から「111万円の生前贈与」を提案され…2 【解説】111万円の生前贈与が逆効果になるケース 経営者の相続 … 続きを読む 税務調査官「追徴課税します」…社長の相続対策が完全裏目に


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経営者の相続対策は、事業をいかにして次世代に承継するかに加えて、個人の財産を相続させることも考える必要があります。しかし相続・事業承継に関係する人は多くなる傾向にあり、トラブルに発展するケースが後を絶ちません。今回は税務調査で追徴課税を指摘された事例についてみていきます。
※プライバシーに配慮し、実際の事例と変えている部分があります。

税理士から「111万円の生前贈与」を提案され…

【登場人物】
Aさん…地方で問屋業を経営
B子さん…Aさんの妻
Cさん…Aさんの長男
Dさん…Aさんの次男

 

「社長、税金対策で111万円、生前贈与されたらどうですか?」

 

地方で問屋業を営むAさん。会社は順調で、税理士と二人三脚、税金対策に余念がありません。

 

「111万円って、110万円まで非課税なんだろ。わざわざ1万円多く贈与する意味、あるのか?」

 

贈与税は、ひとりが1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかるもの。つまり 年間贈与額が110万円以下であれば贈与税がかからず、また申告の必要はありません。この仕組みを利用し、毎年、110万円をコツコツ贈与していく生前対策はよく知られています。

 

「確かに、110万円までの贈与は税金もかかりませんし、申告も不要です。ただあえて111万円を贈与して、きちんと贈与税の申告をするんです。税務署に『私たちは、きちんと税金を払っていますよ』というアピールをするんです」

 

税務署へのアピール……確かに、税務調査は厄介だと、同じ経営者仲間から聞いたことがあったAさん。111万円に対しての贈与税などたかがしれている。税務署からの印象をよくするための対価だと思えば安いもの。そう考えたAさん。贈与用の銀行口座をつくり、毎年111万の贈与を実行。贈与税の申告も毎年欠かさず行いました。

 

「C(長男)、D(次男)の通帳は、お前が管理してくれるか」

 

贈与用に作った銀行口座の通帳は、家計を任している奥さんに。こうして毎年111万円の贈与は、Aさんが亡くなるまで、20年に渡り行われたといいます。

 

時は流れ、Aさんが亡くなった翌年の秋、税務署から1本の電話が。税務調査の連絡でした。「調査なんて、ちょっと緊張するな」と長男のCさん。「会社のことを聞かれても、俺ら、分からないぞ」と次男のDさん。Aさんの会社は、長年のビジネスパートナーに引き継いでいました。「大丈夫よ。お父さん、万全の対策をしてきたから」と妻のBさん。

 

税務調査の日。午前10時になり、家のチャイムが鳴りました。いよいよ調査開始です。まずはリビングで、Aさんのことを中心に尋ねられました。Aさんの思い出話をしていくうちに、どこかほっこりした気持ちになったという3人。調査と聞いて緊張していましたが、「こんなものなのか」と、いつの間にかリラックスしていたといいます。そのときです。

税務調査官「Bさん、Cさん、この預金通帳ですが……」

 

調査官が手にしていたのは、Aさんがコツコツ贈与をしてきた預金通帳でした。

 

Bさん「あっ、これは夫が子供たちのために20年以上もコツコツ贈与をしてきたものなのです」

 

税務調査官「そうみたいですよね。優しいお父さんですね」

 

Cさん「そうなんです。父が亡くなったあと、この通帳を母から渡されて……すごくうれしかったですね」

 

そうCさんが言い終えると、一瞬、空気が変わったように感じたといいます。

 

税務調査「お父さんが毎年贈与をしていることをご存じではなかった、ということですね。これは名義預金ということになり、追徴課税となります」

 

Bさん「でも贈与税の申告はしていましたし、名義預金にはならないんじゃ……」

 

税務調査官「いや贈与税を納めていても、名義預金になります。それに贈与税の申告は、贈与を受けた方がしなければなりません。」

【解説】111万円の生前贈与が逆効果になるケース

相続税の税務調査は、相続税申告をしたおよそ4~5人に1人の確率で行われます。そのうち、8割以上で追徴課税になっています。

 

相続税の税務調査には「強制調査」と「任意調査」があり、そのほとんどが後者です。任意とはいえ断ると逆に目を付けられますから、素直に応じるのが得策です。相続税の税務調査に選定されると、事前に税務署から連絡があります。

 

相続税の税務調査の対象者は、「相続税申告書の計算や評価方法に誤りがあると考えられる」、または「相続税の申告書に計上されていない、漏れている財産があると考えられる」という人が選ばれやすく、事例の場合は後者が疑われたと考えられます。あえて111万円の贈与を行い、贈与税も払っていることをアピールしたことが逆効果になってしまったケースなのです。

 

本来、贈与税の申告は、贈与を受けた側、事例ではAさんの長男であるCさんと次男のDさんがしなければなりません。

 

しかし財産の贈与した親が子どもなどの名前で勝手に贈与税の申告書を提出してしまっているケースが多くみられます。提出された申告書は、筆跡をみればすぐにわかります。相続税の税務調査では筆跡は非常に重要視されます。

 

生前贈与は本来、「贈与する/贈与される」の約束等がしっかりと成立していなければなりません。しかし怪しい申告書であれば、「実は贈与を受けている側は贈与のことを知らされていないのでは」と疑われます。

 

そして相続が発生した際、税務調査に選ばれ、過去の贈与について追及される可能性が高くなります。

 

「贈与税を納めていれば名義預金(=実際に預金している人と口座の名義人が違う預金。相続税の対象になる)にならない」という間違えた意識は、広く浸透しています。その認識のうえ、税務調査で名義預金とみなされると、すでに納めた税額と正しい税額との差異について、追徴となる可能性があるのです。

 

◆話を伺ったのは…

桑田悠子さん

円満相続税理士法人 代表社員税理士。学生時代にアパレル・化粧品事業を開業した後、祖父の死をきっかけに相続のプロになることを決めて税理士業界に飛び込む。税理士法人山田&パートナーズを経て、円満相続税理士法人のパートナーに就任。相続や事業承継を手掛けるほかに、弁護士法人・税理士法人・一般企業などを対象とした相続税研修会や、事業承継研究会などを開催。「難しいことを、分かりやすく、穏やかに話す」ことが特徴。生前対策・事業承継対策・相続税申告を数多く手掛け、SNS での発信も人気の相続専門税理士。
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